library

2025-11-20 12:02:00

教科書を知ろう #3 みんなの日本語 初級Ⅰ

今回は、国内外で現状最もポピュラーな「文法シラバス(構造シラバス)」の日本語教科書『みんなの日本語』を例に、教科書分析をしていきます。また、地域日本語教室ではどのように『みんなの日本語』を使うことができるか、についてもまとめます。

Amazon.co.jpで『みんなの日本語』シリーズをみる⧉

 

<『みんなの日本語』の概要>

  • 1998年の初版発売以来、国内外の日本語学校で最も広く使われている教科書です。「日本語教科書といえば、みん日(みんにち)」として知られています。
  • 副教材も非常に多く、特に15言語もの『翻訳・文法解説』⧉があることが、海外の日本語学校でも人気の理由と考えられます。
  • 『初級Ⅰ』(25課)終了時点がJLPT N5レベル相当、『初級Ⅱ』(50課)終了時点がJLPT N4レベル相当です。

 

<第3版について>

  • 『初級Ⅰ』は、2025年10月29日に最新第3版が発刊されました。この記事は第2版をもとにし、公表資料からわかる箇所については、第3版についても併記します。
  • 現在学習者が手元に持っている教科書はほぼ第2版であり、実際に日本語ボランティアが第3版を目にするのは、どんなに早くても2026年春以降になると思われます。
  • なお、『初級Ⅱ』は2026年3月発刊予定です。

    スリーエーネットワーク|『みんなの日本語 初級 第3版』発行のお知らせ⧉

 

<教科書分析の基本項目>

1. 目的・制作方針:
初めて日本語を学ぶ人が、だれでも楽しく学べるよう、
また教える人にとっても教えやすいように作られた初級の総合教科書

2. 対象者:一般成人 3. レベル:初級
4. 学習内容:
  • 初級前期レベルの「話す」「聞く」
    「読む」「書く」の4技能を身につける
  • 語彙:約1,000
5. シラバス:
文法シラバス(構造シラバス)
6. 学習項目:
シラバス一覧参照⧉
7. 全体構成:
25課、復習問題、動詞活用表、付属資料
8.課構成:
1課8頁「文型」「例文」
「会話」「練習A,B,C」「問題」
9.学習時間数
  • 1課あたり4~6時間
  • 全体で約150時間
10.付属教材:
音声CD(Webあり、無料⧉
11.その他:
  • 表記は日本語(漢字かなまじり)のみ
  • 文字指導(漢字、かな)は含まない

 

<この教科書の特徴>

  • 「文法シラバス」の代表的な教科書で、各課で学ぶ4〜6つの「文型」を軸に課の内容が構成されています。
  • 練習A,練習B,練習Cと順を追って、文型→文→会話と、より大きな文構造へ広げていくようになっています。
  • たくさんの副教材があり、特に『翻訳・文法解説』は、学習者の復習や自習に役立ちます(ただし別売り)。

 

<この教科書の注意点>

  • 最大の注意点は、1課8ページをはじめから順に教える構成にはなっていないという点です。
    ---------------------------------------------------------------------------------------
    例えば第10課には以下の4つの文型が冒頭で提示されています。
    これらをひとつずつ習得していくためには、まず1について練習A,練習B,練習C、と進め、次に2について、また練習Aに戻り…、と課の中を行ったり戻ったりすることになります。

     1. あそこに コンビニが あります。
     2. ロビーに 佐藤さんが います。
     3. 東京ディズニーランドは 千葉県に あります。
     4. 家族は ニューヨークに います。
    ---------------------------------------------------------------------------------------
  • みん日では「4技能を身につける」と謳っているのですが、実際の教科書では「ここでは書く」「ここでは話す」といった方法は指定されていません。つまりレッスンを実施する人が自由に組み合わせたり、変更したりできるのですが、逆にいえば、教科書が推奨する最善の指導法の提示がない、ということです。どうするのがベストかを、支援者が(すべて!)考えなければなりません。
  • また別の観点で、先に示した4つの文型には脈絡がありそうでありません。みん日は「文法シラバス」なので、この文型をいつどのような場面で、誰に対して、どういう文脈で使うか、といったことはあまり重視されていません。支援者の補足が必要になります。

 

養成講座で学んだ日本語教師は、このようなみん日の特徴を踏まえた使い方の指導を受けているようですが、ボランティアではそのことを知らずに前から順に読み上げている方をたくさん目にします。私自身も養成講座出身ではないので、いろいろ調べたり、教えていただいて「みん日は”教科書通り”が通じない」ということが、ようやくわかってきました。

個人的には、未経験者の多いボランティアの現場でみん日を使うのは、かなりハードルが高いと感じています。それでも全く使えない、ということはないので、最後にボランティアでどう使えるか、についてまとめます。

 

<ボランティアでどう使うか>

  • 来日前にみん日で勉強してきた方が、初級を復習したい場合には、みん日の使用を希望されることが多いです。『本冊』または『翻訳・文法解説』(あるいは両方)を、大切に持って来ていることもあります。そのときには、学習者さんの希望を尊重してあげるのが良いと思います。
  • ただし、単純に教科書をなぞるだけでなく、忘れてしまった項目や疑問点に集中すること。そして、練習C〜問題といった応用の部分に注力しましょう。
  • その際に活かせるみん日のメリットは、スライドや動画を無料公開してくださっている方がとても多いことです。

    <みんなの日本語|お役立ちWebサイトの一例>
    日本語教師は見た!⧉(スライド配布)
    Langoal⧉(スライド配布)
    ニホンゴピース⧉(スライド配布)
    にほんごStudy⧉(スライド配布)
    Mikke!⧉(スライド配布)
    YS⧉(Youtube)
    みどりの日本語⧉(Youtube)
    【日本語教師になる】ももこ⧉(Youtube)
    ※日本語教師資格対策で有名なももこ先生。学校の教案作りを想定した内容なので、教員キャリアを目指している方向けです。

  • 応用には、教科書本冊だけでなく、別売りの副教材もおすすめです。間違えたとき、本冊のどの課に戻るかが即座にわかるので使いやすいですし、他の教科書を使っていても、文法の練習や復習にはみん日の問題集を使う、という先生も多いです。

    <みんなの日本語|復習に役立つ副教材>
    みんなの日本語 標準問題集⧉
    みんなの日本語 書いて覚える文型練習帳⧉

 

とはいえ、地域日本語教室ではじめて日本語を勉強する方に、いきなりみん日を使うことはあまりおすすめしません。『みんなの日本語』は対象者を限定しない、文字通り「みんなの」ための教科書だと言われています。時間も人材も限られている地域日本語教室では、もっと個々のニーズにあわせた教科書を選ぶのが、学習者にとっても、支援者にとっても良いのではないかと思います。

 

♦ 参考 ♦

 


2025-11-19 17:15:00

教科書を知ろう #2 シラバスで特徴がわかる

日本語教科書の「シラバス」を理解しておくと、教科書の特徴を知るのに役立ちます。

  • 「シラバス」とは、「何をどの順番で学ぶか」を決めたものです。
  • 「何を」の部分によって、以下の分類があります。それぞれ代表的な教科書例も挙げます。

  1. 文法シラバス(構造シラバス)
    やさしい文法/文構造から難しい文法/文構造へ順に積み上げていく(文型積み上げ式)

    『みんなの日本語』(スリーエーネットワーク)⧉
    『いっぽ にほんご さんぽ』(スリーエーネットワーク)⧉
    『げんき』(the japan times出版)⧉


  2. 場面シラバス
    「病院で」「旅行で」など、場面ごとに使う表現を学ぶ

    『はじめよう日本語』(スリーエーネットワーク)

  3. トピックシラバス(話題シラバス)
    「自己紹介」「家族」「仕事」など、話題ごとに使う表現を学ぶ

    『テーマで学ぶ日本語』(くろしお出版)
    『にほんごこれだけ!』(ココ出版)

  4. 機能シラバス
    「謝罪」「許可」「依頼」など、コミュニケーションの機能ごとに使う表現を学ぶ

    『NIHONGO FUN & EASY』(アスク出版)

  5. 技能シラバス
    4技能(読む、聞く、話す、書く)ごとにまとめられたシラバス

    『Speak Japanese!』(Jリサーチ出版)
    『日本語能力試験問題集 聴解スピードマスター』(Jリサーチ出版)

  6. タスクシラバス(課題シラバス)
    「ファーストフード店で注文する」といった課題の達成に必要な表現や手段を学ぶ

    『まるごと 日本のことばと文化』(三修社)⧉
    『できる日本語』(アルク)⧉
    『つなぐにほんご』(アスク出版)⧉


これから代表的な教科書について、さらに詳しい分析をしていきます。
それぞれのシラバスや教科書がどのようなニーズに合い、どのような場合にデメリットがあるか、そして地域日本語教室ではどのように使うことができるかにも触れます。

 


2025-11-18 18:03:00

教科書を知ろう #1 教科書分析のしかた

「どんな教科書を使ったらいいですか?」という質問をよくいただきます。

 

  • 前提として最も重要なのは、学習者のニーズにあった教科書を選ぶことです。
  • ニーズがわかった上で、次のような項目を調べます。これを「教科書分析」といいます。
    これらは、教科書の巻頭や目次、出版社のWebサイトに掲載されていることがほとんどです。
  • 「誰のため、何のための教科書か」を把握するために、まずは1.〜3.を把握することが最低限といえます。

 

  1. 目的・制作方針
  2. 対象者
  3. レベル
  4. 学習内容
  5. シラバス
  6. 学習項目
  7. 全体構成
  8. 課構成
  9. 学習時間数
  10. 付属教材

 

さらに、「シラバス」について知っておくと、教科書の特徴がよりわかりやすくなります。
次の記事で「シラバス」について理解していきましょう。

 


1